明治から昭和にかけて炭鉱で栄え、一時期は多くの人々が暮らしていた小さな島です。
現在は廃墟と化した集合住宅が立ち並ぶ無人島となっています。
山陽工業では修繕した建物の長寿命化を目指し、この
世界遺産で有名な軍艦島。名前を聞いたことがある・なんとなく知っているという方も多いのではないでしょうか。
軍艦島(正式名、端島)は長崎半島沖にあります。島の大半が埋め立てによってかたち作られ、島内には朽ち果てた鉄筋コンクリート造りの高層住宅が身を寄せ合うように立ち並んでいます。
軍艦島の歴史は明治時代まで遡ります。江戸時代が終わり、明治維新を経て近代化していく日本にとって、石炭は工場・船・車・汽車等を動かすのに欠かせない重要なエネルギー源でした。その最中、軍艦島の海底から良質な石炭が発見されます。
採掘の規模はどんどん大きくなり、大量の石炭を掘るために多くの人を雇う必要がありました。ただ、海に浮かぶ島へ毎日船で行き来するのは不便なので、働く人がすぐに炭鉱へ行けるよう、加えてその家族も一緒に住めるように
島の埋め立てと共に多くの人が移り住むようになり、一時期は東京都の9倍に及ぶ人口密度を誇った軍艦島ですが、やがてエネルギー源が石炭から石油へ変わっていくと、石炭は売れないとの理由で炭鉱は閉鎖され、人々は島から立ち去らなければなりませんでした。
以来、軍艦島は長いこと放置され、その間に建物の老朽化が進み、現在のような廃墟となりました。
世界文化遺産に登録され、長崎を代表する観光地となった軍艦島ですが、建設会社として山陽工業が注目したいのは構造物としての廃墟にあります。
一般にはあまり広く知られていませんが、軍艦島では大学や企業などの専門チームによる調査・研究が度々行われています。長い年月をかけて劣化していた鉄筋コンクリートやその他の建物達は、研究者や建物に携わる人々にとってまだ見ぬデータが詰まった
そんな中、山陽工業では
弊社は「工事をして終わり」「修繕が完了したらさようなら」ではありません。10年先を見据えた工事という理念のもと、建物をより長持ちさせるため、何より
軍艦島での共同研究もそのうちの一つです。
上陸当日、天気は雨でした。
道具や機材が濡れないよう雨具で守り、小雨よりもやや強い雨粒に打たれながら軍艦島行きの船に乗り込みます。
そこから船に揺られること数十分・・・。
桟橋を渡り、長崎市の許可を得ていないと入れない立ち入り禁止区域へ入っていきます。
軍艦島の廃墟は、上の動画をご覧になっていただくと分かるように、いつ崩壊してもおかしくないほど劣化が進んでいます。そのような建物を間近で調査するとなると、大きな危険が付きまとうので安全対策のため必ずヘルメットを着用します。
地面は瓦礫や石が散らばっており非常に進みづらくなっています。雨も降っているので足を滑らせないよう気を付けながら進んでいきます。
前の人の背中についてしばらく歩くと開けた場所に出ました。周囲を見渡せばこれぞ軍艦島といった巨大な廃墟の数々が視界に飛び込んできます。
通常、廃墟の内部に入ることはできませんが、鉄筋コンクリート構造物の修復・保存の研究のため例外的に、上陸経験が豊富の先生方から探索時の注意点を聞いた上で建物内部の調査を行っています。中は想像以上にボロボロで木材や瓦礫が散らばっています。
山陽工業が軍艦島で研究しているのは
山陽工業では、数年前から軍艦島に複数の
全てのコンクリート試験体には
コンクリートの主な劣化原因は
海水や雨水を被ることによって年月が経つと同時に試験体は少しずつ劣化していきます。すると、試験体内部にある鉄筋が外部から浸入してきた水によって
これはコンクリート試験体にコーティングした塗料が
この時、流れていく錆汁の量が多いか少ないか、目立つか否かで試験体の劣化をある程度判断することができます。錆汁の量が多い=鉄筋の錆びている量が多い=試験体内部により多くの水が浸入している、という図式が成り立つからです。
山陽工業が設置したコンクリート試験体はどうなっているでしょうか。
コーティングが効いているおかげであまり錆汁が目立たない試験体もあれば、コンクリートの隙間から大量に漏れ出ている試験体もある等、反応は様々でした。
他にも水分や塩分がどのくらい含まれているか、光沢はどの程度か定量的にデータを取りながら経過観察を続けていきます。
建物の修繕工事を行う際に必須とも呼べる工程が
鉄部は建物や構造物のありとあらゆる場所に組み込まれており、劣化症状が発生したら塗装作業を行って直してあげる必要があります。
鉄部塗装は、通常の外壁塗装よりも
塗料の種類や建物の置かれている環境によって差異はありますが、一般的に耐用年数は3〜5年と言われています。経年劣化による症状としては、チョーキング(=塗料の色成分が粉状になって現れること)や塗装の変色・退色等が挙げられます。ですが、最も厄介なのは
鉄部が金属である以上、サビの発生は避けられません。
そこで山陽工業では、お客様に最適な目安での修繕工事を推奨する傍ら、
種類・組み合わせ・塗り回数の異なる試験体(鉄板)を用意し、それらを隣り合わせに並べ、年数をかけて経過観察を行います。
また、今回の上陸で設置した新しい試験体とは別に、コンクリートブロック同様、数年前から経過観察を行っている鉄板があるので、そちらの様子もチェックします。
まずは数値を取ります。
試験体に専用の計測器を当てて、各鉄板の照度と輝度の数値を出します。この数値は試験体の成果を客観的に把握するための貴重なデータであり、定期的に採取することで
次は目視で確認します。
設置してからまだ3年経っていないため、塗装は全体的に綺麗な状態を保っていますが、ひとつだけ塗膜が大きく捲れている鉄板がありました。こちらは実験失敗ということになりますが、もう少し様子を見ます。すぐに回収するのではなく、
軍艦島は、建物にとって
四方を海に囲まれていることから常に潮風に晒され、毎年通過する台風によって豪雨と暴風に見舞われます。都市部とは比べ物にならない速さで建物や構造物は劣化してきます。ですが、このような過酷な環境だからこそ
一番の目的である新しい試験体の設置と既存の試験体のデータ収集が完了したら、迎えの船が来るまでの時間、通常は立ち入れない廃墟の内部や瓦礫の山の調査を行いました。
とは言っても全ての場所を自由に調査できるという訳ではなく、建物内部の階段を登ることが許されているのは軍艦島の廃墟の中でもごくわずかでした。それでも少し辺りを見渡せば、迫力のある廃墟を間近で調べることができます。
建物内部にも入ってみます。
照明が存在しないため全体的に薄暗く、足場には木材やガラスの破片も多く散らばっていました。ただ意外にも生活空間としての形を保っている部分もあり、島内の立地によって劣化の進行具合に大きな差が出ていることが分かります。
劣化箇所によっては、その形状を観察することで、どのように崩壊していったのか、廃墟になるまでの過程を予想できる部分もあります。
帰る頃には土砂降りだった雨も止んでいました!
僅か数時間という短い滞在時間でしたが、設置した試験体から新しい発見があった他、軍艦島の廃墟の痕跡を通じて多くの学術者の方々と意見を交換することができる等、技術面でも知識面でも非常に有意義な時間を過ごすことができました。
軍艦島で得た発見や知識を社内で共有し、実際の施工に活かせそうな技術は、試験施工を実施します。その上で建物のためになると判断できた場合のみ、お客様への提案内容の一つに組み込ませていただきます。
今回の貴重な経験を
山陽工業は、創業以来黒字経営が経常化。
健全な企業体制を構築しています。良いと判断したものを積極的に取り入れ、時代を先取りした経営を心掛けています。工事物件が多いためメーカー等と企業間取引を行うことにより、
住みながらの大規模修繕工事から立体駐車場の塗装、コンクリートの美観を復活させる工事など、幅広いにニーズにお応えしています。
皆様の住まいと資産を長く守り続けるために自分達は何をすべきか何ができるのか、今後も大学の皆さんと連携して建物の耐久性を追い求めるための共同研究を続けていきます。
この記事を書いた人 山陽工業 よーこちゃん
・山陽工業に入社して2年目の広報社員。
・たくさんの現場を巡って、日々様々な知識と写真を集めています。
・施工管理に長けた工事監督さん、この道何十年の熟練職人さんの方々に取材を行い、建物の修繕・改修に関する情報を発信していきます。